・製油業界新時代へ 日清オイリオグループ×J-オイルミルズ 業務提携に向けて協議開始

 製油トップの日清オイリオグループと2番手のJ-オイルミルズが製油事業の川上部門で業務提携に踏み出すことになった。昨年、両社が同時発表したリリース文書によると、川上領域である搾油工程(原油と油粕の製造)における提携で、製油メーカーの根幹部分である輸入原料を、国内工場において油と油粕に分ける工程を双方が受委託するという内容。搾油の前段階である油糧種子および原料油脂の共同配船も行い、まさに川上での効率化や安定化を目指し、持続可能な安定供給体制を構築する。

危機感、問題意識の共有が
業務提携に向けた協議へのバネに

 搾油工程における受委託というのは、古くて新しい問題だ。製油業界は2004年に業界再編を行い、日清製油がリノール油脂、ニッコー製油を統合し、日清オイリオグループとしてスタート。一方で、ホーネンコーポレーションと味の素製油、吉原製油は合併し、J-オイルミルズを設立した。
 この再編以前は、東西に拠点を持つ会社は少なく、古くはホーネンコーポレーション(当時は豊年製油)と吉原製油は日本大豆製油(JSP)を神戸に作り、共同で大豆の搾油を行っていた。
 また、味の素製油(当時は味の素油脂事業部)と吉原製油はそれぞれの拠点が千葉と神戸であったため、東西の工場間で原油と油粕の等価交換、いわゆるスワップを実施し、効率化を図っていた。
 再編後も日清オイリオグループと昭和産業が業務提携を結び、昭和産業の主力工場である鹿島工場で、日清オイリオが大豆、菜種搾油を委託している。 再編で製油業界が最低限の収益を手にすることができたのは事実。それ以前は、原料高や為替の変化、世界的なオイルとミールのバランスの崩れから赤字になることもままあった。
 植物油の関税引き下げという課題を突きつけられていた時期でもある。このままでは製油産業はもたないとう危機感があったのは間違いなく、それが再編に突き進んだ大きな要因の一つであった。
 再編で業界は活性化し、多少の原料高騰や円安、世界需給における波乱要因があっても安定的な収益を生み出せる体制を構築した。
 今回、大手2社が手を組むということは、再編以上の危機感、そして問題意識の共有化があったから。それは、リリースに記されている通りで、国内においては少子高齢化による人口減少と、それに伴う油脂と油粕の需要減退。外に目を向けると、TPPなどの貿易協定の進展、つまり植物油の関税引き下げ、そして世界的には人口増大による食資源確保に向けた国際競争の激化。
 厳しさが増す一方の内外環境の中、「油脂」という食に欠くことのできない基礎素材の安定供給、さらには日本の食品産業を支えるサプライチェーンの一翼を担っていることへの責任感が、2大メーカーを業務提携交渉へ走らせたに違いない。
 2社が組む意味がそこにあり、製油産業の未来を見据えたあるべき姿を模索する方向で一致したことは、時代の歯車が大きく回り出した、逆に言うと、回さざるを得ないほど厳しい環境下に置かれているということでもある。
 両社によると、業務提携検討の範囲は①両社の搾油設備を活用した受委託②油糧種子や原料油脂の共同配船③原油と油粕の工場間での等価交換④災害による工場操業停止など供給に問題が発生した場合に協力する体制の構築。
 新たに両社による共同プロジェクトを設置し、業務提携の範囲と具体的な内容について協議、検討。その他事項についても業務提携の範囲の可能性としている。

災害と物流費の高騰に対応する
スキームが実現するか

 とくに、この数年、大きな問題となっているのは物流であり、災害対策である。物流問題に関して、今後の話し合いでどこまで踏み込むのかわからないが、ローリー車の運転手不足、働き方改革等々、コスト高騰も含めて年々状況は悪化する一方で、物流問題は事業継続にかかわる喫緊の課題である。
 東から西へ、西から東へ運ぶというスキームの見直し、極力、東で搾油した製品は東で、西もまたしかり、そこで完結する体制作りが差し迫った状況の改善に資することは明らかである。
 これは単にコスト削減効果を生むだけでなく、人口減少、人手不足、高齢化、環境問題に対する一つの答えでもある。
 リリースにも掲げている「災害による工場操業停止など供給に問題が発生した場合に協力する体制の構築」も価値あること、というか、これこそ業界として早急にその仕組み作りをしなければならない問題である。 
 今後、両社は、プロジェクトでの検討を進め、2020年3月末までの業務提携基本契約の締結を目指すが、今回のことは2社だけでの問題ではなく、実は製油業界全体として取り組むべき課題でもある。
 将来的に大手の一角を担う昭和産業、中堅各社を巻き込むまでに発展するのかどうか、簡単なことではないが、安全・安心な油脂と油粕を安定的に供給することで、日本の食を支えるという使命は製油産業全体で共有すべき役割である。
 業務提携の協議、検討および契約の締結にあたっては「独占禁止法に抵触しないよう留意し、関係当局などとの相談の上、進めていく」と両社は強調する。具体化に向けて動く中で、公正取引委員会との協議の行方がどうなるのか、クリアすべき課題はまだまだ多いが、製油業界の10年後、もっとその先を見据えたあるべき姿への挑戦と受け止めたい。 

(総合食品2019年12月号より)

大豆・菜種搾油場分布

Posted at - 2020/01/07(火曜日) 15:13:00 -